青春の孤島にて

この季節 駆け抜けるべき

舞台『グリーンマイル』


ネタバレしてますので、お気になさる方は自己防衛のほどよろしくお願い致します。


一週間前、シゲさん主演の舞台『グリーンマイル』を観劇して参りました。人生初舞台観劇、初グローブ座です。噂には聞いてたけどすんごくこじんまりとした劇場で、たった703人だけがこの公演の目撃者になれる、とても贅沢な箱だなと。ただ席が一階最後列のかなり上手ステージ寄りだったので、常時イスに対して斜め座り+頭を左に傾けて観てたから、観劇後は首から腰がめちゃめちゃ痛くなった(泣)。でもそれも振り返れば良き思い出です。


作品に関して、私は小説も映画も全然知らなくて、シゲさんの各所でのコメントを聞いてから凄い作品に出演するんだということを知ったのですが、実際観劇して改めてこの作品に携わることが出来たシゲさんをファンとして誇りに思います。

因みに私はネタバレ全くなしで行ってきました。ただこれにはわけがあって、元々洋物に苦手意識がある上*1、たった一回しか観劇の機会がないので、その一回だけで話の全てをきちんと理解できるか不安で、ひとまず洋画不得手ながらも映画版を観ておこうと思って近くのTS◯TAYAにレンタルしに行ったんですが、まさかの貸し出し中という。こういうこともあるよね。予習する時はちゃんと前もって準備しよう。ただ展開が難しい話ではなかったので予習なしでも全然平気でしたね。知ってたら知ってたで色々比較考察とか出来たんでしょうけども、丸々フラットに観れるのは一回だけなので、その一回をシゲさんを通して観れたのは担当冥利(?)に尽きるなと思ったので、むしろ借りられててよかったのかもしれない。



やっと本題。舞台の感想です。結局まだ原作も映画も見てないので考察にもレポにもなってないのですが、興味と暇がありましたらどうぞスクロールを。


率直な感想は、つらい。つらく、悲しい話でした。死ななくていい人間が死ぬからとかでなく、もっと単純に、心が通い合ったポールとコーフィーがあんな形で引き裂かれたことが、とてもつらくて悲しかった。今でも思い出すと涙が出そうなくらいコーフィーが処刑されるシーンは、ずしんと心臓のあたりに重くのしかかっています。

けれども『グリーンマイル』がただつらい悲しいだけで語り切れる話かと言ったら、答えは圧倒的に否です。


生身の人間による生の演技を目の当たりにしつつ、私は目の前で起こる出来事をどこか別の世界の話だと感じていました。台詞こそ日本語ですが、私が生きる現代の日本とは国も時代もまるで違うし、当然劇中で呼ばれる役名は全員英名。そもそも舞台は私みたいな一般市民には(願わくば一生)縁のない死刑囚が収監されている刑務所です。とても身近な話と言えるわけもなく、ステージと客席の間には明確な境界線がありました。別世界の話だと感じたのは、こういう覆りようのない設定からであると私は思います。

しかし一方でそう思いながらも泣くほど物語に入り込んでしまえたのは、これが決してこの現代日本で起こり得ない話ではないと、ほとほと理解していたから。縁はないけどあり得ない話でもない。この微妙な距離感が答えの出ない問いに改めて向き合うために必要な余地なのかなと思います。私はまだ人が死ぬ瞬間っていうのを見たことがないのですけど、人が処刑される手順とそうする理由を説明されてからデラクロアとコーフィーが処刑されていって、(演技とはいえ)初めて人が人の手によって死にゆく全容を自分の目で見て、改めて"死刑制度がある世界"の葛藤を感じました。というかここまで考えたことが今までなかった。だから結構まともにショックを受けてます、現在進行形で。


劇中でポールとブルータス、ディーンの3人が死刑制度について話すシーンがあるのですが、このシーンは子供を持つディーンの悲痛な叫びが痛くて痛くて。家庭では幼い命を育てながら仕事では人を殺しているというジレンマに苛まれた末に「もう誰も殺したくない」と叫ぶディーン。機械的に刑を執行しながら人間の心もここにちゃんとあると、そうダイレクトに伝わってきて、悲しいというより痛い。ディーン役の永田涼さんはカンパニーでも一番年下の若手でまだまだ駆け出しの役者さんだそうですが、大恐慌の中で家族のため仕事を失うわけにもいかず看守でいることを選ぶ理知的な部分と、人の命を奪うことに怖じ気づく感情的な部分とが、だんだん綯い交ぜになっていくところがリアルで、とても魅力的な役者さんだなと思いました。

堅く生真面目な印象がベースにあるポールとブルータスに、親の権力を盾に威張り散らす絵に描いたようなクズ人間のパーシー*2という看守の面々の中で、弱さも強さも同じだけ持つかなり"普通っぽい"人間のディーンがおそらく一番共感しやすい登場人物だと思うのですが、そのディーンが一番看守という仕事に疑問を感じているのが、死刑を冷酷非道なものだと思う「人間の良心」を保持したい人間のエゴイズム(のようなもの)を普遍的なものとするためなのかなと思ったんですけど、そもそも死刑を冷酷非道なものだと思う人間がどの程度いるのかがわからないのでちょっと断定できないですねこれ。

ただ「人間の良心」を叫ぶディーンに対して、受刑者を殺すのは看守でも届けにサインした奴でも死刑判決を下した陪審員でもなく、この制度を必要とし、この制度を選んだ社会だと諭すポールが無慈悲だとも思えないのがいろんな意味で人間の妙というか、今の今まで死刑制度の是非が問われ続ける理由だとも思うわけで。ポールもきっとディーンのような思いを持った時があったのだろうし、主任になるまでの間にどうにか折り合いをつけてやって来た結果なのかなと思うと、それもそれでポールも"普通っぽい"人間だと言える気がしてきたな。というかこの話に1から10まで理解不能な人間は一人も出てこないんですね。ブルータスもパーシーも所長もデラクロアもウォートンも、何かしら各々の正しいとするものに時には反することを厭わない強さの仮面を被った弱さを持っていて、言い訳したり開き直ったり他人を許せなかったり、そういう誰にでもある弱さはステージと客席の距離を縮める要素になりえてる。少なくとも私は全員にこういう人間いるよなぁと思いました。


だとするなら心優しいコーフィーはやはりそういう弱さを持った人間たちによる民主主義の犠牲者となってしまうのでしょうか。コーフィーの罪とは一体何かとあれからずっと考えています。コーフィーは自分の何を許せず、刑に服すること受け入れたのか。それは「悪法もまた法なり」なのか、それとももっと直接的な罪の意識なのか。先に言ったように私は悪くないとわかっているのに死にゆくコーフィーが可哀想で悲しかったんじゃなくて、一度は一緒にメリンダを救おうとしたポールとコーフィーが最期にはどちらも救われない結末を迎えることが悲しくて仕方なかった。だけど神に祈る4人を見ていたら、死ぬことも時には救いになるのかもしれないと思いました。それがたとえ信頼する相手が押すスイッチによってもたらされる死であったとしても。きっと不本意な人生を歩んできたであろうコーフィーも、Eブロックでポールたちに出会って救われ、ポールたちもコーフィーに関わるうちに救われ、だからこそ最期が悲しいんだけど、その最期は孤独な暗闇ではなく信頼するポールたちと繋がっていられたことがコーフィーにとっての灯火になっていればいいなと思います。どうかあのカシオペア座が輝く夜空だけは忘れないでいてほしい。



私は「NEWSの加藤シゲアキ」が好きです。NEWSとして歌って踊って喋ってるシゲが大好きです。でも私があの日見たステージの上に、私の大好きな「NEWSの加藤シゲアキ」はいませんでした。大好きなシゲと同じ姿形をしているのに、大好きなシゲの声が聴こえるのに、目の前にいたのは「NEWSの加藤シゲアキ」ではなく「役者の加藤シゲアキ」でした。6月に『NEVERLAND』で見た「NEWSの加藤シゲアキ」は物理的に遠い場所で、酷く苦しかった時にいつも眺めた星のようにキラキラ輝いていて、ここからどれだけ手を伸ばしても絶対に届かない、手を伸ばす気にもなれない、そんな遠い遠い存在で。そんな存在であるシゲが私は大好きなんですけど、グローブ座で見た「役者の加藤シゲアキ」は双眼鏡なんかなくても表情がはっきりわかるくらい近い場所で息をしていて、ようやく「シゲって実在してるんだ」と思えて。でも「役者の加藤シゲアキ」は東京ドームの時より何倍も近くにいるはずなのに、感覚的には全然遠い存在だった。こうして近づいてみたら、実在することは確認できたけど、やっぱり永遠に手を伸ばすことはない星なんだなということがわかって、うん、なんか、もっとシゲのことが大好きになりました。ずっと手が届かない、ただただ眩しい光に包まれている、そんな存在であるシゲが、私は大好きです。


いろんなものを持ち帰らせてもらった、贅沢すぎる130分でした。初めて自分の意思でお芝居を観にいくということをしたのですが、初めての舞台がこの『グリーンマイル』で、本当によかったなと思っています。シゲが『グリーンマイル』に初めて触れた時と同じ高校生の時に私もこの作品に出逢えたのもただの偶然でしょうが、まぁこれもまた運命かなと都合よく考えたりもします。でもシゲのファンじゃなかったら、多分一生この話を知らないまま死んでいってたんだなと思うと、生きる上で誰とどう出逢うかっていうのは自力では選べないけれど、きっと他の何より重要で大切にすべきことなのだと、改めて思いました。何千回何万回思っていますが、私は加藤シゲアキという人との出逢いにとても感謝していますし、『グリーンマイル』と出逢わせてくれたことにも、心から感謝しています。私を1人/25000にしてくれて、本当にどうもありがとうございました。

残りの公演、無事に幕が閉じますよう祈っております。


*1:洋画も洋楽も全く見聞がないので、実はシゲ部でのそういう類の話は9割何を言ってるのか解ってないダメヲタクでございます。でも自分の好きなことに関して異常なほど饒舌なシゲが好きなので、そういう雰囲気を楽しむことにしてる

*2:パーシーについてはただのクズ人間で片付けるには惜しいくらい重要な役なのでまだ掘り下げる余地はありそうなんですが、そこまで考えられるほどこの作品にまだ触れられていないので、ひとまずこうカテゴライズしておきます